「研究職に就きたいけど、大手企業は競争率が高くて難しい…」
「正社員で研究職をしているけど、残業が多くてワークライフバランスが崩壊してる…」
「結婚や出産をしても、研究職が続けられるのか分からない…」
こんな悩みを抱えていませんか?
中には正社員ではなく「研究職派遣」を考えている方もいるのではないかと思います。
しかし派遣社員では、正社員と比べて給与や雇用の不安定さが心配ですよね。
私も正社員の研究職から研究職派遣へと転職するときは、不安な気持ちがありました。
今では研究職派遣に転職して本当によかったと思っています。
この記事では研究職派遣の
- 給与や年収
- メリットとデメリット
- 福利厚生や有給休暇
を実体験ベースでまとめています。
これから研究職派遣を目指す方への注意点もご紹介しているので、ぜひ最後までご覧ください。
研究職派遣の3つの働き方
- 登録型派遣
- 正社員型派遣
- 紹介予定派遣
研究機関へと派遣される点は同じですが、給与形態や待遇などが異なります。
企業の正社員 | 正社員型派遣 | 登録型派遣 | 紹介予定派遣 | |
---|---|---|---|---|
雇用形態 | 正社員 | 派遣社員 | ||
雇用期間 | 無期雇用 | 有期雇用 (最大3年) |
有期雇用 (最大6ヶ月) |
|
給与 | 固定給 | 時給 | ||
通勤手当 | ○ | △ (派遣元の条件による) |
||
派遣先の選択 | – | 派遣先が指定 | 自分で選択 | |
無就業期間の給与 | – | ○ | × |
3種類の派遣の働き方の特徴などについて説明していきます。
1.登録型派遣:期間限定の雇用
一般的な派遣社員の雇用形態です。
派遣会社に登録し、条件を満たす求人があったときに派遣されます。
働く場所や時間の自由度が高く、希望の地域や勤務時間などライフスタイルに合わせて仕事を選ぶことが可能です。
派遣期間または契約更新の時期が定められている期間限定の雇用です。
雇用期間が終了しても、派遣先との合意があれば契約を更新し、最長3年まで働けます。
働く期間は派遣先によって異なり、3ヶ月、6ヶ月単位から年単位まで様々です。
- 勤務地や勤務時間などを自分で選びたい方
- 出産や子育てがひと段落した主婦(主夫)
- パートナーの転勤が多い方
- 短期でスキルアップしたい方
2.正社員型派遣:人材派遣会社の正社員
派遣会社の正社員となり、外部へ派遣されて働く雇用形態です。
常用型派遣、無期雇用派遣とも言われます。
正社員のため、給与や雇用が安定しており、福利厚生も一般的な企業とほぼ同等です。
派遣先が決まっていない待機期間中にも給与が発生します。
派遣先は会社によって決められることが多く、全国転勤の可能性があります。
無期雇用契約のため、派遣期間が最長3年というルールには当てはまらず、同じ派遣先で長期間働くことも可能です。
- 新卒、第二新卒(学位を問わない)
- 正社員から転職する方
- ポスドク、任期付き助教授
3.紹介予定派遣:社員登用が前提
正社員や契約社員としての社員登用が予定されている雇用形態です。
派遣先の試用期間のようなもので、最長6ヶ月の派遣期間を経てお互いが合意すれば社員になれます。
職場の様子を事前に体験でき、合わない環境であれば派遣期間満了での辞退も可能です。
ただし、社員登用はあくまでも「予定」であることに注意してください。
実際に紹介予定派遣から登用された人は約54%と半数ほど。(厚生労働省「令和元年度 労働者派遣事業報告書の集計結果」)
正社員になった人は約28%とさらに少なく、狭き門と言えます。(独立行政法人 労働政策機構「人材派遣会社におけるキャリア管理に関する調査」)
- 正社員から転職する方
- ポスドク、任期付き助教授
- 大手企業や有名研究所で働きたい方
- 職場の雰囲気や人間関係を重視する方
研究職派遣の平均時給、給与、年収
研究職でも正社員から派遣社員になると、給与が低くなるのでは…と心配になりますよね。
研究職派遣の平均時給をもとに、正社員の給与や年収との比較をしてみましょう。
平均時給
派遣社員の給与は時給制で、平均時給は地域や職種などにより様々です。
研究職の時給相場は、全職種の平均時給に比べて高めで、正社員の給与を超える場合もあります。(はたらこネット「職種別平均時給 2023年6月」)
- 全職種の平均時給:1,437円
- 研究職の平均時給(未経験):1,522円
- 研究職の平均時給(経験者):1,671円
給与と年収
1日8時間、月21日勤務とすると、研究職派遣の月収は約28万円、年収は約337万円と算出されます。
正社員の研究職では初任給が22万円程度(修士課程修了)のため、正社員の給与を超える場合もあります。(求人ボックス.com 2023年)
- 時給1,671円 × 8時間 × 21日 = 280,728円(月収)
- 月収280,728円 × 12ヶ月 = 3,368,736円(年収)
実際に私が民間企業の正社員研究職だったときは、初任給が21万円、年収320万円ほどでした。
研究職派遣になった際は、時給1,750円。
月収は26〜30万円、年収に換算すると340万円と、正社員時代の年収を上回っていました。
高時給にするコツ
派遣先が求める経験や語学力などがあれば、時給が高い派遣先を選べます。
高時給の研究職派遣を選ぶには
- 大学時代の研究分野が近い
- 該当の実験スキルを保有
- 医薬品分野の文書作成、臨床開発経験あり
- 英語での論文執筆経験あり
- プログラミングができる
などの条件があります。
同等のスキルを持っていても派遣先によって時給が異なるため、事前に派遣会社の求人を確認してみてください。
給与が下がるケース
給与に関して注意したいのは、福利厚生の内容によっては正社員より給与が低くなることがある点です。
福利厚生について詳しくは後述しますが、基本的に派遣は派遣元の福利厚生が適用されます。
派遣元によっては、派遣先のような手厚い補助や各種手当がないこともあり、正社員に比べて手取りが低くなることもあります。
派遣会社を選ぶ際は、福利厚生も加味して選ぶと良いでしょう。
研究職派遣で働くメリット7つ
正社員ではなく、派遣の研究職として働くメリットを7つご紹介します。
1. 研究の環境が整っている
派遣社員は正社員よりも雇用にコストがかかるので、派遣先の大半は予算が豊富な研究機関です。
有名企業の研究部署や最先端の研究を扱う大学の研究室、公的機関や外資系の研究所など、設備が整った環境で研究できます。
実験以外の業務がほとんどなく、研究に集中できることも魅力です。
正社員の場合、他部署との会議や社内委員会などで時間を取られることも多々あります。
一方で研究職派遣であれば、業務時間の大半を実験に使うことができるんです。
ジョブローテーションがないため、研究を続ける目的で研究職派遣を選ぶ方もいます。
2. 実験スキルアップが速い
研究職派遣では、様々な分野の実務経験を積むことができます。
短期間で幅広い実験スキルが身に付くため、研究機関でテクニシャンとして活躍したい方におすすめです。
私は元々バイオ系専攻でしたが、研究職派遣になって食品系や医療系など他分野の研究を経験できました。
大学院時代に比べると、扱える実験手法や実験機器がたった1年で2倍以上に増加。
選べる仕事の幅もどんどん広がっていると感じています。
3. 正社員より年収が高いケースもある
前述しましたが、研究職派遣は正社員の年収を超えることもあります。
研究の経験者で平均時給1,671円、1日8時間、月21日勤務したとすると、月収は約28万円、年収は約337万円と算出されます。
正社員の研究職では初任給が22万円程度(修士課程修了)、年収には幅があり320〜963万円、民間企業の研究職であれば年収300〜400万円ほどです。
派遣社員でも正社員と同等かそれ以上稼ぐことも可能と言えます。
4. 派遣会社のサポートがある
研究職派遣では、派遣会社からのサポートを受けることができます。
サポート内容は派遣会社にもよりますが、下記のようなものが多いようです。
- 担当者との定期的な面談
- 実験技術のトレーニング
- ストレスチェックなどの健康サポート
- 資格取得の支援
- 派遣同士の交流イベント開催
特に、派遣の仕事について相談できる担当者がいることは心強いです。
派遣先と雇用条件を交渉するときは、担当者に間に入ってもらえてスムーズに話を進められました。
派遣期間中にも、福利厚生の利用などで相談に乗ってもらえたため、安心して仕事ができたと感じます。
5. 転職コストが低い
研究職の転職先を探すとき、研究職派遣サービスを経由すれば自分に合った職場を見つけやすいです。
紹介予定派遣の場合、双方の合意があればそのまま社員として雇われます。
最長6ヶ月、事前に職場を体験したうえで決められるため、転職のミスマッチが起こりにくいと言えます。
期限付きの登録型派遣でも、3年の契約満期の後に引き抜かれることもあるようです。
6. ライフスタイルに合わせて働ける
研究職派遣は残業が少なく、プライベートな時間を作りやすいです。
残業時間は派遣先や時期などによって変わりますが、私の場合は月10時間ほどでした。
私が正社員で研究していたころは、国の規定の月45時間をギリギリ超えないくらいだったので、残業はかなり減ったと感じました。
出産や育児、家族の転勤などのライフイベントにも柔軟に対応できます。
パートナーの転勤が決まった方も、派遣会社の担当者からその地域にある派遣先を紹介してもらえたようです。
7. 未経験でも研究職を目指せる
正社員の研究職の大半は大学院卒ですが、研究職派遣であれば学部卒や文系出身などの未経験でも研究職を目指せます。
派遣登録の際や派遣先配属前などに、実験器具の使用や溶液の濃度計算など簡単なテストがあります。
実験操作が未経験であれば、派遣会社の研修で器具の扱いを教えてもらえることが多いです。
濃度計算のテストは中学の理科レベルです。以下に公式と例題を載せています。
質量パーセント濃度(%) = 溶質の質量(g) ÷ 溶液の質量(g) × 100
モル濃度(mol/L) = 溶質の物質量(mol) ÷ 溶液の体積(L)
例題1)
20gの砂糖を100gの水に溶かしたときの質量パーセント濃度を求めよ。(有効数字は3桁)
20 ÷ (20+100) × 100 = 16.666… ≒ 16.7(%)
例題2)
11.7gの塩化ナトリウムを100mLの水に溶かしたときのモル濃度を求めよ。(原子量は H:1、O:16、Na:23、Cl:35.5)(有効数字は2桁)
NaClの分子量は 23+35.5 = 58.5、水100mLは 0.1Lより
(11.7 ÷ 58.5) ÷ 0.1 = 2.0(mol/L)
研究職派遣で働くデメリット4つ
派遣社員として研究の仕事をするのには、メリットが多くあることが分かりました。
しかし一方で、研究職派遣にはデメリットもあります。
今回ご紹介する4つのデメリットも加味し、正社員か派遣社員かの働き方を選んでみてください。
1. 実験以外のスキルアップが難しい
研究職派遣は、派遣先によって仕事の裁量権の大きさが様々です。
プロトコルに沿って実験を行うルーティンワークが多い派遣先もあれば、社員と同等のパフォーマンスが求められる職場もあります。
ルーティンワークが多い職場であれば、研究者としてのスキルやビジネススキルなどの実験以外のスキルを身につけることは難しいです。
私の場合、派遣先によっては役員や外部へのプレゼン、新規研究テーマの論文調査、共同研究の立案などを任されることもありました。
そういった職場であれば、研究者としてのスキルを身につけることも可能です。
以下、ルーティンワークが多い職場と研究スキルアップが期待できる職場を記載したので、派遣先選びの参考にしてみてください。
- 受託検査や分析
- 品質管理業務
- 未経験歓迎の仕事
- 大学教授の直属
- 研究ベンチャー
- 紹介予定派遣
2. 年収アップやキャリアアップは困難
研究職派遣では、30代半ばほどで年収が頭打ちになります。
同じ派遣先で3年以上は働けないため、長期で働く正社員のような昇給や組織内で出世することは難しいです。
しかし、2020年4月の派遣法の改正により、正社員と派遣社員の格差を改善することが進められています。
派遣社員でも、働き方によっては昇給やボーナスなどが受けられるようになりました。(厚生労働省「同一労働同一賃金」)
正社員に対するボーナス支給の規定を満たしていれば、派遣社員もボーナスがもらえます。
実際にボーナスを支給されている派遣社員は10%以下ですが、今後は研究職派遣でも年収アップが期待できるかもしれません。
3. 雇用が不安定
登録型派遣の場合、同じ派遣先では最長3年までしか働けません。
次の登録先がすぐ見つかるとは限らず、中には派遣先の都合で契約が打ち切られることもあります。
雇用を安定させるには、スキルアップに取り組むことが効果的です。
社員登用が前提の紹介予定派遣に採用されるには、研究分野に関する深い知識や高度な実験スキルが求められます。
登録型派遣でも、所有するスキルによっては次の派遣先を見つけやすかったり、派遣先に引き抜かれたりなどが期待できます。
汎用性の高い実験スキルを取得する、研究分野の知識や語学力を身につけるなどで、安定的な雇用が得られるだけでなく時給アップにもつながります。
研究職派遣ではプライベートな時間を作りやすいため、この時間を活用してスキルアップに取り組むと良いでしょう。
4. 福利厚生が正社員より劣る場合がある
派遣元との契約関係にもよりますが、派遣社員は正社員と比べて受けられる福利厚生が限られる場合があります。
派遣元との契約関係が
- 労使協定方式 → 福利厚生は派遣元と合わせる
- 派遣先均等・均衡方式 → 福利厚生は派遣先と合わせる
「派遣先均等・均衡方式」であれば、派遣先の正社員と同様に通勤手当、住宅手当、慶弔休暇、資格取得の支援、提携施設利用の割引などが受けられます。
しかし、派遣契約の約9割は「労使協定方式」です。
「労使協定方式」では、派遣先と比べて福利厚生の内容が劣ると感じることもあるでしょう。
私も身内の不幸があった際に、忌引休暇が派遣先より短く不満に思ったことがありました。
ただし、基本的な福利厚生は受けられます。
研究職派遣で受けられる基本的な福利厚生については、次の章で説明していきます。
研究職派遣の福利厚生
以前は「派遣社員は通勤手当がない」「有給休暇が取れない」などと福利厚生への不満が多くありました。
しかし近年では、派遣社員の待遇は正社員と同等へと改善されつつあります。
そこで、現在の研究職派遣が受けられる福利厚生について代表的なものをご紹介していきます。
基本的な福利厚生
全ての派遣社員は、以下の基本的な福利厚生が受けられます。
- 社会保険
- 健康診断
- 産休、育休
- 有給休暇
派遣元との契約関係が「労使協定方式」の場合、福利厚生は派遣元の社員と同等にするよう定められています。
研究職派遣では、基本的な福利厚生に加えて、資格取得の支援や定期的な教育訓練などを受けられることが多いです。
派遣先の福利厚生を受けられない場合でも、福利厚生施設の利用は可能です。
職場の更衣室や休憩室、社員食堂などは利用できます。
通勤手当
派遣法の改正により、派遣社員にも通勤手当が支給されるようになりました。
ただし、あくまで派遣会社の社員と同等のため、全額実費のところもあります。
通勤手当のある派遣会社によっても、上限額や距離の規定、時給には含まず別途支給などと支給条件は異なります。
通勤手当の条件は、派遣登録前に確認しておくと良いでしょう。
有給休暇
派遣社員でも有給休暇の取得や使用ができます。
労働基準法によって「6ヶ月間継続勤務、8割以上出勤で10日の有給休暇付与」が義務付けられています。
「10日以上の有給休暇が与えられる労働者は、年5日以上は有給休暇を取得させる」とされており、雇用形態に関係なく安心して休みが取れるようになりました。
研究職派遣の場合は、有給休暇を使用するときは派遣先と派遣元の両方に申請しなければならないことに注意が必要です。
実験などのスケジュール調整にも関わるため、休みを取りたい場合はなるべく早めに申請しておくと良いでしょう。
研究職派遣を目指す方への注意点
研究職派遣は、仕事によっては35歳の年齢制限があると言われています。
雇用対策法では、正当な理由がない限り求人の年齢制限は禁止されています。(厚生労働省「募集・採用における年齢制限禁止」)
しかし、研究職では経験が重視されるため、派遣社員であっても35歳以上で未経験の場合は難しいことが多いです。
35歳以上の未経験から研究職を目指すなら、研究職専門の派遣会社に登録しましょう。
経験なしでも受け入れられる派遣先を紹介してくれます。
研究の経験者でも、年齢を重ねるにつれて応募できる派遣先は限定されます。
携わってきた分野と異なる分野の研究機関では採用されづらくなるでしょう。
研究職派遣で長く働いていくにはスキルアップに取り組み、実績を積んでいくことが必要です。
研究職の未経験者はもちろん、経験者も将来を見越してキャリア計画を立てていきましょう。